厚生労働省の指針
厚生労働省は令和5年11月6日、社会保障審議会の介護給付分科会にて、現行3つの介護職員処遇改善加算を一本化する方針を示しました。
背景には「処遇改善加算はルールが煩雑で理解が難しい」と考える事業所が一定数いることが問題視されています。具体的な要因は以下のとおりです。
- 制度要件の理解が難しい
- 事務作業が煩雑
- 職種間の賃金調整が難しい
- 利用者負担の増加
また、職場環境等要件についても見直され、より厳格化される見通しとなりました。
介護人材確保がますます厳しさを増す中、処遇改善加算の取得は必須の状況です。
本記事では改定後の加算概要を解説しつつ、処遇改善加算が見直される背景を追いました。
現在の介護職員処遇改善加算の問題点
現在、処遇改善加算の種類は3種類があり支給対象者は次のとおりです。
| 処遇改善加算の種類 | 対象者 |
| 介護職員処遇改善加算 | 介護職員のみに支給 |
| 介護職員等特定処遇改善加算 | 主に経験・技能のある介護職員に支給 |
| 介護職員等ベースアップ等支援加算 | 主に介護職員に支給額の2/3を毎月支給 |
上記の“介護職員等”が付く加算は一定要件の元、その他の職員にも配分可能です。
例えば、特定処遇改善加算の場合だと他の介護職員に対する配分比率50%以下であれば他職種への支給も出来ます。
これら配分比率要件に加え、介護職員処遇改善加算Ⅰを取得するには昇給・賃金体系や人事制度の整備が必要です。
賃金体系、職場環境等要件、人事制度整備などの支給要件、配分要件を「正確に理解」した上で、支給金額を計算して支給し、次年度7月には実績報告を行います。
編集部が取得した介護職員処遇改善加算を取得しない介護事業所様のコメント
「ルールが複雑ゆえ、その計算もスムーズにいかないと感じている。まずそこまで内容に親しみ慣れていないことで、制度への理解も進まない。効率的に教えてくれるアドバイザーでも派遣してくれると良い」
統計的な数字でみると、同分科会の報告によれば介護職員等ベースアップ等加算を取得しない理由の上位は
- 「賃金改善の仕組みを設けるための事務作業が煩雑であるため」 40%
- 「計画書や実績報告書の作成が煩雑であるため」 35.7%
となっています。現場の意見や数字からみても、処遇改善加算は“複雑な加算制度”といえます。
さらに、介護職員処遇改善加算は現場の介護士を主な対象とするため、介護支援専門員など他職種との“賃金バランス調整”も悩みとされています。この点は後で詳しく解説します。
また、介護職員処遇改善加算を取得すると利用者負担も増加するため、取得には否定的な事業所も一定数いることが報告されています。
上記の問題があることで、令和5年4月時点の各処遇改善加算の取得率は
- 介護職員処遇改善加算 93.8%
- 介護職員等特定処遇改善加算 77.0%
- 介護職員等ベースアップ等支援加算 92.1%
特に介護職員等特定処遇改善加算の取得率が問題視されており、令和2年度以降の取得率は約70%台で推移しています。
これらを背景に「3つの処遇改善加算を一本化し、事務負担を軽減すべき」とされ、配分要件を無くし、特定処遇改善加算の報告項目が撤廃される見通しです。
一方、各処遇改善加算は「他分野の職種との賃金格差を是正し、介護職員の離職を防ぐ」狙いがあるとされますが、同分科会では
- 介護の現場で働く方の確保に向けて、新規人材の確保、適切な業務分担の推進、やりがいの醸成・キャリアアップを含めた離職防止や、職場環境等要件に基づく取組について、より実効性のあるものとしていく観点から、どのような方策が考えられるか。
との意見が示され、各介護事業所が職員環境要件等において要件以上の取り組みが進められていることから、取り組み項目は拡充される見通しとなりました。
次の項目では、改定後の介護職員処遇改善加算の一本化と職場環境等要件について解説いたします。
改定後の介護職員の処遇改善加算

上記は改定後の処遇改善加算のイメージ図です。下段Ⅰから上段Ⅳに向けて、Ⅰ~Ⅳ段階の区分になる予定です。
現在、9割近い取得率の介護職員処遇改善加算と介護職員等ベースアップ加算を踏まえると、4段階中2~3段階までは取得できると想定されます。
移行期間はありますが、最上位区分を狙うには介護福祉士の資格者を増やすことが今後の事業所運営では必要な改定内容です。
同分科会で発表された処遇改善加算の新要件ポイントは次のとおりです。
- 介護職員への配分を基本とする。
- 経験と技能のある職員には重点配分する。
- 事業所内で柔軟な配分を認める。
- 月額賃金改定のベースアップ額を増額する。
まとめると、介護職員を基本に月額賃金を増額して、熟練の介護士には重点的に配分。ただし、その他の職員にも柔軟に配分を認めると解釈できます。
現在、介護職員等ベースアップ等支援加算を取得した事業所では平均給与額が約30万円から約31万円と「1万円」増額しており、さらなる増額が見込まれます。
厚生労働省「2022年賃金構造基本統計調査」によると一般労働者の月額平均賃金は「約31万」のため、他産業との賃金格差是正について、一定の評価はできます。
しかし、介護職の離職を防ぐためにはさらなる賃金改善が必要な状況です。
他方、「職種間の賃金バランス崩壊」についても解説いたします。
介護職員等ベースアップ等支援加算を他職種に振り分ける配分比率について同分科会より、以下のとおり報告されました。
| 令和3年12月 平均給与額 | 令和4年12月 平均給与額 | ベースアップ等支援加算 他職種への配分比率 | |
| 介護職員 | 300,740円 | 318,230円 | ― |
| 看護職員 | 354,790円 | 372,970円 | 45.1% |
| 生活相談員・支援相談員 | 326,640円 | 342,810円 | 45.1% |
| 機能訓練指導員(リハ職) | 342,740円 | 355,060円 | 27.9% |
| 介護支援専門員 | 347,950円 | 362,700円 | 29.9% |
| 事務職員 | 295,720円 | 308,430円 | 31.5% |
| 調理員 | 249,740円 | 262,540円 | 16.4% |
| 管理栄養士・栄養士 | 301,460円 | 316,820円 | 18.5% |
※平均給与額には基本給+各種手当を含んだ金額
相談員や看護職員の給与も増額されていることがわかります。
この点に関して編集部が所得した介護事業所様コメントでは以下の懸念が示されています。
「分配内容が事業者の方針で調整可能なため、不公平感やアンバランスさにつながっている。介護職員以外への配分に制限があるので特に不公平感が強い。職務給方式でない場合、特にケアマネと介護職員との給料逆転現象になるため、ケアマネ減少や職員のキャリアアップ意欲低下の遠因になっている。」
採用戦略を考える上で、介護職員の給与増額は必須の状況ですが同時に賃金調整の難しさは、各介護事業所が抱える課題として残っています。
次に、職場環境等要件の見直しについて概説いたします。
職場環境等要件の見直し

改定後の職場環境等要件では、多くの事業所が要件以上の取り組みをしている実態を踏まえ、取り組み項目数が増加される見通しです。
また、有給休暇取得を取得しやすい取り組みや研修内容の拡大、経営協働化についても言及されました。
見直しのポイントは次の通りです。
- 「見える化要件」は必須の方向性となり、各取り組みを公表するよう求める
- 業務の属人化を解消し、有給休暇を取得しやすい組織作りと上司の声掛け
- 研修受講支援の対象に、介護福祉士ファーストステップ研修とユニットリーダー研修を追加
同分科会の報告では、職場環境等要件の取り組みについてアンケートの分析結果も報告されており「職員満足度」と「継続就業意向」との関連性を検討しています。
特に職場環境等要件の取り組みが認知されていると、職員満足度と継続就業意向が高いと報告されました。
職員満足度が高いオッズ比(今回の場合は1が標準満足度)項目は人材マネジメント、雇用管理と相談対応が1.928。続いて柔軟な勤務と雇用対応が1.507との結果でした。
継続就業意向が高いオッズ比項目は柔軟な勤務と雇用対応が1.532。続いて情報共有、コミュニケーション、学びの機会、手順書・マニュアル作成が1.483との結果になりました。
「職員満足度」と「継続就業意向」どちらも職場環境等要件の取り組み数がオッズ比1を超えており、賃上げ効果に加え「職場環境改善と公表」も重要であることが分かっています。
次に有給休暇を取得できない状況についても触れており、主任・リーダークラスの有給取得率20%以下と60%超事業所の違いを報告しています。
| 取り組み項目 | 有給取得率20%以下の事業所 | 有給取得率60%超の事業所 |
| 上司からの声掛け | 18.5% | 34.3% |
| 複数担当制による属人化解消 | 11.6% | 23.8% |
| チーム毎の交代制有給付与 | 6.2% | 15.2% |
その他の取り組みを比べると時間単位制や採用活動と人材の確保、業務量の見直しなどでは「有給休暇取得率」に大差はありませんでした。
よって、「上司による有給休暇を取得しやすい声かけ」と「複数人が業務を担当することによる、業務の属人化を解消する」が追加される方向性です。
介護福祉士ファーストステップ研修とユニットリーダー研修の受講拡大については、受講前と受講後を比較し、自己評価と事業所評価が高い傾向が報告され追加の方針となりました。
最後に、これらを踏まえ介護職員処遇改善加算の取得には何が必要なのか考えます。
改定後の介護職処遇改善加算の取得と生産性向上

令和4年度介護労働実態調査によれば介護職員の採用困難事例は増しており、特に訪問介護事業所の従業員が不足していると回答した事業所は、60%近くと危機的な状況です。
定着促進に効果があるとされるのは
- 残業を少なくし、有給休暇を取得しやすくする
- 本人の希望に応じた勤務体制
- コミュニケーションの円滑化
- 賃金水準の向上
改定後の加算取得要件では、これらの課題解決も求められる方針で、介護現場の生産性を向上し、業務負担の軽減が図られる方向性となりました。
生産性向上、有給取得や勤務体制の充実には人材獲得が必要不可欠。ただし、賃金改善に有効な処遇改善加算は煩雑な事務作業や研修コストなど課題も多く存在し、作業負担が大きくのしかかってきます。
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